虫本体の布は、おもに絹を使用しています。やはり虫(お蚕さん)の作り出した絹にこだわりたいという思いもありますが、何と言っても絹がうつくしいからです。目玉にはビーズやアートフラワー用のペップ。顎にはネックレスの丸環。触角や脚には細いワイヤーに刺繍糸を巻くなど色々な手芸材料を組み合わせ、押絵の技法で作っています。
近頃では「押絵」と言ってもピンと来ないかもしれませんね。12月半ばに浅草の羽子板市のニュースが流れますが、あの羽子板の立体感のある布の人形が押絵です。
ざっくり作り方を書くと、下絵を考え、色・柄別に厚紙でそれぞれの型を作り→型に綿をのせた上で布でくるみ→電気ゴテとボンドを使って貼り付けて各パーツを作り→それらを下絵の通りに組み立てていく・・となります。
ところで最も古い押絵は徳川二代将軍秀忠の娘で入内した東福門院作の紀貫之像と伝えられています。宮中で作られた押絵が武士階級に伝わり、京から江戸に伝わり、庶民の間では人気歌舞伎役者の姿を写した羽子板としてブレイクしたようです。
明治以降、押絵は女学校の授業でも教えられていました。1917年(大正6年)生まれでギリギリ戦前の女学校に入った私の伯母も授業で習ったそうです。着物を大切に着ていた時代のリメイクとして、小さな端切れで作品が作れる押絵が流行っていたのもうなずけますね。